研究員コラム

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2026年5月15日

PL思考からファイナンス思考へ

調査研究・コンサルティング部門
プリンシパル(経営戦略ストラテジスト) 藤本 茂夫

■「不動産メタボ企業」へのアクティビストの接近

日経ビジネス(2026年4月6日号)の特集「アクティビスト、次の標的『不動産メタボ企業』が危ない」で、企業が保有する不動産の含み益や資産効率に着目したアクティビストによる投資が活発になっていることが取り上げられた。保有する不動産を活用して収益を目指すか、あるいは売却するかの決断を企業はアクティビストに迫られているのである。
これと同じような話は他にもある。政策保有株(持ち合い株式)の縮減や余剰現預金の使い道だ。アクティビストはこれら資産の低収益性を根拠に、「成長投資にまわすべきである、その見込がないなら配当や自社株買いで株主に還元すべきである」と主張する。

■何が問題なのか

保有不動産や政策保有株、余剰現預金(以下、保有不動産等)の問題に共通するのは、これらが企業価値向上に貢献しているかが疑わしいことである。
企業経営の規範は中長期的な企業価値の向上である。企業価値とは将来キャッシュフローの割引現在価値の合計なので、企業価値の向上とは将来キャッシュフローが増加することといえる。これを資本にかかるコストと収益(リターン)から捉えると、元手である資本が、その資本にかかるコストを上回るリターンを生み出す結果、元手資本が増えることである。
このように、企業価値の向上は資本×(資本利益率(*1)-資本コスト(*2))で表されるので、「資本利益率>資本コスト」でなければ、保有不動産等は企業価値を棄損していることになる。アクティビストはそこを問題視しており、その主張は合理的といえる。それに対し企業は、資本利益率が資本コストを上回り、企業価値向上に貢献していることの説明責任を負うのである。
(*1)投下資本利益率(Return On Invested Capital:ROIC)や株主資本利益率(Return On Equity:ROE)など
(*2)加重平均資本コスト(Weighted Average Cost of Capital:WACC)や株主資本コスト(Cost of Equity:COE)など

■PL思考からファイナンス思考へ

保有不動産等の問題は企業における資本収益性への問題意識の低さに起因する。一般的に「収益性」といえば、売上に対しどれだけ利益を生み出せるかを意味し、このような視点を「PL思考」という。それに対し、投下(使用)した資本に対しどれだけ利益(リターン)を生み出すかに着目するのが「ファイナンス思考」である。企業価値向上の観点から、企業にはPL思考からファイナンス思考への転換が求められているのである。なお、ファイナンス思考はPLを否定するものでは決してない。リターンはPLから求められるものであり、PLはファイナンス思考においても中心的な位置づけにある。
重要なことは、ファイナンス思考への転換は目先のアクティビスト対策ではなく、企業価値向上の実現に向けた本質的な取り組みであるとの理解である。

■実践におけるポイント

ファイナンス思考の実践にあたって、まずは理論的基盤となるコーポレートファイナンス理論の基礎を理解する必要がある。そのうえで、PLの運用管理ができている場合、BSやCF項目と日常業務を関連付けることになる。役職や担当業務に応じ、管理可能性に基づき重点管理項目やKPIを定め運用管理を行うのである。マネジメントレベルであれば企業価値に影響する項目全般に目配りをする。一方、営業担当者であれば売上債権の早期回収、製造担当者であれば棚卸資産や固定資産の縮減である。これらの業務が企業価値向上にどう結びついているかをコーポレートファイナンス理論の枠組みで理解することがポイントとなる。