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2025年7月24日

シニア人材の活用促進に関する調査報告 <シニア個人(アンケート)編>

調査研究・コンサルティング部門
理事/プリンシパル 田渕 文美

少子高齢化が進行する中、企業における持続的な成長と人材確保の観点から、シニア人材の活用がますます重要と言われており、2025年4月からは、改正高年齢者雇用安定法も施行される中で、企業は継続雇用の延長は、就業確保措置を講じているものと想定されます。しかし一方では、その運用や実態においては課題が多いという意見も聞かれます。
そこで、インソースグループでは、「シニア人材の活用促進に関する調査」を実施することとし、まずは、シニア個人のマインド面から、シニアの人事・賃金制度等の雇用実態、シニア自身の意識・モチベーション等を調査することで、シニアの問題意識の特定と解決の方向性を明らかにします。この結果は、次に予定している人事担当者への調査と合わせて、今後のシニアの人材戦略や制度設計に資することを目的としています。

目次

0.調査概要、調査の特徴
1.シニア世代の雇用実態の把握
2.シニア世代が抱える課題の特定と解決の方向性
3.課題解決策のサポート材料の検証

0.調査概要、調査の特徴

■調査概要

<<回答者の属性>>
 <業種>

<<回答者の属性>>
  <企業規模>

  <勤続年数>

■調査の特徴
○ 本調査では、企業に勤める50歳以上のシニアの方々について、年齢・年代ではなく、下記のような企業における現在のポジションカテゴリ(計7種、923名)をベースに設計した。これは、多くのシニアが安定した正社員の地位から役割の変化を経験し、シニア待遇となっていく中で、意識変化やモチベーション維持等がどのように影響を及ぼしているか、マインド面の視点からのカテゴリ分けである。

○ なお、本調査においては、7種のポジションの中から、それぞれの質問の趣旨にあうカテゴリを対象としている。例えば、定年後の人事・評価制度、業務内容の変化、報酬への影響等を聞く場合には、下図のピンクの3種のポジションカテゴリの人(総計338名)の意見を反映している。

1.シニア世代の雇用実態の把握

■定年制度の実態
○ 60歳定年が46.2%とまだ最も多いが、次の65歳定年が29.4%と、かなり多くなっている。
○ 本調査では、20名以下の企業を対象外としたため、定年制が無い、又は廃止された企業は10%弱と低く出ているが、20名以上の企業も含むスクリーニング調査の結果(5,000人対象)では、3割近い企業で既に定年制度を廃止している。

◇ 高齢者雇用安定法へ対応が徐々に出始めており、定年制度の延長・廃止・多様化が進んでいる。

■定年制度と従業員規模との関係
〇「定年制がない」企業は7%程度存在するが、従業員規模とのクロス分析によれば、99名以下の企業では「定年制がない」が17.8%、100名~299名の企業では7.7%と中堅規模以上の企業に比べて、何倍も高くなっている。(下表黄)。
〇一方で、「60歳定年」の企業では、2000人以上の大企業が50%超と高く、「61歳~64歳定年」が非常に低くなっていることが特徴的であると言える。
〇「66歳以上の定年」の会社も計7%程度と一定数存在する。 
◇小規模な企業においては、定年制度がない・廃止された割合が高く、シニアが重要な人材であることがうかがえる。

■継続雇用制度の実態
〇65歳までの継続雇用制度(高齢者雇用安定法による努力義務)がある企業が4割強
〇70歳までの継続雇用制度がある企業が16%強
〇70歳超の継続雇用制度がある企業が12%程
◇高齢者雇用安定法による、高齢者の就業確保の一定程度の効果が出ていることが確認できる。

■定年後の業務内容の変化と報酬への影響の関係
〇まず、シニアで正社員時代と同様の業務をしている人の割合は(負荷別に、下表グレー部分)は、67.2%と高い。
〇しかし、「同様の業務内容で、自分の負荷も同じ」の人の中で、「5割以上報酬が下がった」人が22.5%、 「一部異なる業務で、負荷も同じ」人で、「5割以上報酬が下がった」人が33.4%と厳しい。
〇より厳しいのは、「同様の業務で、負荷が重くなった」のに、「5割以上報酬が下がった」人が49.9%、 「業務が異なり、負荷が重くなった」人で、「5割以上報酬が下がった」人が52.9%という結果が出ている。
◇このような相当な減額について、減少幅は企業により異なると思われるが、シニアのモチベーションや働きがいに大きな影響を与えていることが容易に想定される。

■定年後の人事評価制度の実施と、評価結果の処遇への反映 
<人事評価の実施状況>                       
 ・「正社員同様の評価プロセスを実施している」:33.1%
 ・「評価項目を限定して実施している」:39.6%
 ・「個人面談の実施」:40.2%

<評価結果の処遇反映面>
 ・「基本給へ反映している」:31.1%
 ・「基本給以外への反映」:34.9%
 ・「評価プロセスがあるものの処遇に反映されない」:31.4%

◇シニアの人事評価制度は一定程度存在するが、結果反映は十分とは言えない実態のようである。シニアのモチベーション維持や公平感の確保には、評価制度の実質的な運用が必要と思われる。

2.シニア世代が抱える課題の特定と解決の方向性

■シニアの抱える課題の実態 
〇シニアの問題意識が高い課題は、「処遇に課題を感じる」が57.9%と最も高く、次に「新スキルが習得できてない」が55.7%、「モチベーション低下を感じる」が47.8%と続く。
◇シニアは自身の現状に対して多面的な課題認識を持っており、「処遇の適正性」、「新たなスキル習得の困難さ」には、シ「モチベーション低下」も約半数が感じており、働きがいの向上への対応が必要である。

〇一方で、シニアの問題意識が低い課題は、「パフォーマンス低下」や、「人間関係の課題感」で、3割程度にとどまっている。
◇これらのシニアの問題意識が低い課題については、職場側の意識の乖離があることも想定される。

■「処遇の適正化」に関する課題 ① ポジションカテゴリとの関係
〇シニアが感じている現状の課題認識の中で、最も重い課題と出ている「処遇の適正化」について、深堀をしてみる。
「処遇の適正化」の課題を、ポジションカテゴリ別に見ると、以下の通りである。

・「定年がない正社員」や「役職定年や定年まで3年以上先」の人では不満を持つ人が半数程度である。
・一方、それ以降(それより下)は不満に思っている割合が10ポイント以上高くなり、特に、定年以降の「再雇用(フルタイム)で66.2%、「再雇用(パートタイム)」で63.5%と割合が高くなっている。
・「再雇用(フルタイム)」の中で「大いにそう思う」人の割合が突出して高く、不満が深刻だと思われる。

■「処遇の適正化」に関する課題 ② 報酬の影響度
〇前頁の「処遇の適正化に課題がある」と思っている定年退職または定年後の回答者について、「報酬への影響」との関係を見ると、 
・正社員時代に比べ報酬が「変わらない」や「2割くらい下がった」という人は、4割台の課題感であるのに対して、それ以上引き下げられた選択肢ではほとんど6~8割の人が課題感を示している。
・特に、「6割くらい下がった人では8割近くの人が処遇は適正ではないと感じており、「1割くらい下がった」人の4割台に比べると2倍近い人の不満が表れている。
◇処遇の適正化への課題感の大きさには、報酬の下落率が、かなり大きく影響していると思われる。

■「モチベーションの低下」とポジションカテゴリの関係
〇シニアの問題意識が3番目に高かった「モチベーション低下」の課題について、現在のポジションとの関係性を見ると、
・「定年までに3年以上ある正社員」のモチベーションは、モチベーション低下を感じてない前向き回答がかなり優勢(17.1ポイント差)だが、「2~3年で役職定年を迎える正社員」では、前向きと後向きが拮抗、「2~3年で定年を迎える正社員」では、前向きと後向きが逆転する(8.7ポイント差)。
・「フルタイムの再雇用者」では再び、前向きと後向きが同レベルになっているが、「パートタイムの再雇用者」の人は、 モチベーションが著しく下がっている(16.2ポイント差)。
・ただ、「業務委託や社会貢献事業の従事者」については、 モチベーションは落ち着いている。
・なお、「定年がない正社員」は、前向き回答が優勢(10.7ポイント差)。

◇シニアがそれぞれ置かれたポジションの不安定さの度合いによって、モチベーションも影響を受けている傾向があることが推測される。

■「パフォーマンス低下」の課題とポジションカテゴリとの関係
〇一方、シニアの課題意識が低かった「パフォーマンス低下」の課題については、全てのポジションカテゴリにおいて、シニア自身が自分の業務パフォーマンスは低いと思っていない割合が、大幅に上回っている。
〇特に「役職定年や定年が3年以上先の正社員」や「2~3年で定年を迎える正社員」では、7割以上の人が自身のパフォーマンスに自信を持っており、自己評価が高いことがうかがえる。

◇ただし、このシニアの自己認識や実際の能力と、周囲の評価には、何らかの原因で乖離がある可能性もある。

■研修受講の実態と希望
シニアの問題意識が高い課題で、2番目に上がった「新スキルが習得できない」の確認のため、研修受講状況や希望を確認した。
(1)最近1~2年に受講した研修☚最も高い「ITツール関連」で8.5%だが、「キャリアチェンジ研修」、「マインド研修」は4%台と低い。
(2)今後受講したい研修☚「ITツール関連」が18.9%とトップ、次点が「費用補助のある外部研修」16.9%と高い点も注目される。
(3)受講したいが社内に整備されていない研修☚ほぼ全ての研修で2割を超えている。

◇今後受講したい研修や、受講したいが会社に準備されてない研修へのニーズが強く出ているため、企業ニーズと照らし合わせながら、学習意欲が高いシニアのリスキリングを促進することで、企業価値向上につながる可能性を示している。

3.課題解決策のサポート材料の検証

■魅力的な役割・業務
〇シニアが最も魅力を感じるのは、「専門分野のエキスパート業務」(57.3%)であり、 これまで培った専門性を活かせる役割への強い志向が確認できる。
〇「社内コンサルタント」(47.2%)への関心も2番目に高い。これまでのスキルや経験を活かした組織への貢献意欲と指導者としての自己実現欲求の表れと推測できる。
◇シニアを専門性や経験が活かせる高付加価値業務に配置することで、シニアのモチベーション向上と企業価値向上が実現できることを示唆している。

■今後の働き方希望
〇今後のシニアの働き方希望については、挑戦性、自習性、柔軟性、安定性、社会性等の多面的であることが特徴。
 (トップ3は、「人生はこれからだ」、「学び直しが必要なら自主的に取り組む」、「自身や家族ケアに時間を割く」。)
〇多くのシニアは、ひとりでバリエーションに富む、複数の選択肢を考えており、社会情勢や各自が置かれた状況を見ながら、実際の働き方を模索している姿が見えてくる。
◇企業や社会においては、シニアの多様な働き方を前向きにとらえ、シニア人材を活用促進する柔軟な制度設計が有益。

■本報告書に関するお問合せ
株式会社 インソース総合研究所
調査研究・コンサルティング部門 理事/プリンシパル 田渕文美
email : [email protected] / web: https://www.insource-ri.co.jp

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