研究員コラム

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2026年5月29日

【連載】パーパス経営が組織を動かす
第1回:数値化だけでは組織はうまくまわらない

近畿大学経営学部経営学科 特任講師
インソース総合研究所 客員主任研究員
米田 晃

 現代の組織では、数値を用いた管理が広く浸透している。営業部ではKPIが掲げられ、その成果が個人の評価やボーナスに直結する。昨今、注目を集めている人的資本開示においても、組織の人的資本情報を数値化し、外部に示すことが求められている。数値は、利益率、離職率、エンゲージメントなどを可視化し、組織の現状把握や意思決定を支える重要な手段である。
 しかし、数値化は重大な問題を引き起こすこともある。短期的な目標を重視するあまり、長期的な価値を軽視してしまうのである。経済学では、こうした現象を「グッドハートの法則」と呼ぶ(Goodhart、 1984)。ある指標が目標として用いられるようになると、その指標はもはや良い指標として機能しなくなる、という考え方である。営業部の例で言えば、顧客との長期的な信頼関係よりも短期的な売上目標の達成が目的化してしまうといった現象がこれに該当する。
 もっとも、グッドハートの法則は、なぜ数値化が自己目的化してしまうのか、その組織内のメカニズムまでを説明してくれるわけではない。この点を考えるうえで参考になるのが、Alvesson and Spicer(2012)の「組織的愚かさ」という概念である。組織は一見すると、数値を用いることで合理的に管理されているように見える。しかし、数値による管理が精緻化するほど、「なぜそれを測るのか」、「何のためにその目標を達成するのか」といった根本的な目的は後景化していく。その結果、数値は本来の目的を実現するための手段であったはずなのに、いつの間にか、数値目標を達成すること自体が目的になってしまうのである。
 こうした問題を抑制するには、数値を測る目的を明確にする必要がある(小塩、 2026)。この目的に立ち返ることは、近年の経営学研究においてパーパス論として注目されている。パーパスとは、企業が社会の中で何のために存在し、どのような価値を生み出そうとしているのかを示す企業の存在意義を指す。
 もちろん、パーパスを掲げれば、ただちに数値化の問題が解決するわけではない。実際、パーパスを設定することで満足してしまっている企業も散見される。重要なのは、パーパスを組織内における種々の具体的な実践と結びつけることである。その数値が何のために用いられ、どのような長期的価値につながるのかをパーパスと照らし合わせて問い続けることが、数値化の時代においてパーパスが果たしうる重要な役割である。
 では、具体的にどうすればパーパスに基づいた実践を組織内に波及させることができるのだろうか。次回のコラムでは、経営理念やMVVとの違いを踏まえながら、パーパス経営を実践するための方途について紹介する。


参考文献
Alvesson, M., & Spicer, A. (2012). A stupidity‐based theory of organizations. Journal of
Management Studies, 49(7), pp. 1194-1220.
Goodhart, C. A. E. (1984). Monetary theory and practice: The UK experience. London:
Macmillan.
小塩真司(2026). 『「数値化」中毒:なぜ手段が目的に変わるのか』PHP研究所.

【連載】パーパス経営が組織を動かす
本連載では、インソース総合研究所 客員主任研究員で近畿大学経営学部経営学科の特任講師を務める米田 晃がパーパス経営の有効性や実践上の意義について、わかりやすく解説します。

・第1回(本ページ):数値化だけでは組織はうまくまわらない—パーパス経営の実践的意義
・第2回:7月上旬掲載予定
・第3回:9月上旬掲載予定
・第4回:11月上旬掲載予定