研究員コラム

2026年9月1日

【連載】成果を出す会社は社員の“心”に投資している!
第2回:ウェルビーイングを左右する「心理的資本」

神戸大学大学院経営学研究科 特命助教
インソース総合研究所 客員主任研究員
堂西 晴香

 前回は、ウェルビーイングの向上こそが企業価値を高める重要な経営課題であることを紹介した。では、社員のウェルビーイングをさらに高めていくためには、どのような視点が重要なのだろうか。そのヒントとして、近年、多くの企業や研究者から関心を集めているのが「心理的資本(Psychological Capital)」である。

 心理的資本とは、アメリカの経営学者フレッド・ルーサンス教授らによって提唱された概念であり、一人ひとりが持つポジティブな心理的エネルギーを指す。心理的資本は、Hope(ホープ)、Efficacy(エフィカシー)、Resilience(レジリエンス)、Optimism(オプティミズム)の4つの要素から構成され、それぞれの頭文字を取って「HERO」と呼ばれている(Luthans, Youssef & Avolio, 2015)。ホープは目標達成に向けて道筋を描き、粘り強く進む力、エフィカシーは自分ならできるという自信、レジリエンスは逆境から立ち直るしなやかな強さ、そしてオプティミズムは未来に対して前向きな見通しを持つ力である。

 ルーサンス教授らによれば、これら4つの力が相互に作用するとき、人は本来持っている力を存分に発揮できるようになるという。心理的資本は、誰もが心の中に持つHEROを目覚めさせることで、自らの可能性を広げ、本来の力を発揮するためのポジティブな心理的エネルギーとして、世界中で注目を集めているのである。

 では、なぜこうした心理的エネルギーが「資本」として捉えられるのだろうか。企業には、資金や設備といった「経済的資本」、知識やスキルといった「人的資本」、信頼関係やネットワークといった「社会関係資本」など、さまざまな資本が存在する。しかし、どれほど優れた設備や知識、スキルを持っていたとしても、「自分には無理かもしれない」と一歩を踏み出せなければ、その能力は十分に発揮されない。また、多くの人から信頼されていても、新しい挑戦を避け続ければ、その人間関係が大きな成果を生み出すことも難しいだろう。つまり、経済的資本、人的資本、社会関係資本は「持っているだけ」では価値を生み出さない。成果へと結び付ける推進力が必要なのであり、こうした価値創出に資する源泉であるという意味において、「資本」として捉えることができるのである。

 昨今、「心理的資本」が特に注目を集める背景には、心理的資本がもつ「開発可能性」がある。心理的な諸要因には、その日の気分や感情のように一時的に変化するものもあれば、生まれ持った性格や性分、キャラクターのように大きく変えることが難しいものもある。流動的で不安定なものでもなく、逆に固定的で変化しにくいものでもない、その中間に位置するのがこの心理的資本であり、まさにこうした開発可能性を有するという点こそが、心理的資本が昨今脚光を浴びているゆえんである。

 そして、この「開発可能性」は、ウェルビーイングとの関係を考えるうえでも重要な意味を持つ。ウェルビーイングは、一度高まれば終わりではない。仕事での成功や失敗、人間関係、家庭環境などによって、日々変化するものである。だからこそ、目先の気分を変えるだけではなく、揺れ動くウェルビーイングを内側から支える力が必要となる。その役割を担うのが、心理的資本なのである。

 次回は、心理的資本を構成する4つの要素「HERO」について、それぞれが職場でどのような役割を果たすのか、まずはホープについて解説することにしよう。


参考文献
Luthans, F., Youssef, C. M. & Avolio, B. J. (2015). Psychological Capital and Beyond, Oxford: Oxford University Press(開本浩矢・加納郁也・井川浩輔・高階利徳・厨子直之訳『こころの資本―心理的資本とその展開―』中央経済社、2020年).

【連載】成果を出す会社は社員の”心”に投資している!(全8回)
本連載では、組織パフォーマンスにも影響する、企業で働く人々の心理的資本とウェルビーイングの関連性について、神戸大学大学院経営学研究科特命助教で、インソース総合研究所客員主任研究員も務める堂西 晴香が解説します。2027年3月まで毎月初旬に公開いたします。

・第1回:成果を出す会社は社員の“心”に投資している!なぜ今、ウェルビーイングなのか
・第2回:ウェルビーイングを左右する「心理的資本」