仕事を任せても、困難に直面するとすぐに手が止まってしまう。このような姿を見て、「もう少し主体的に動いてほしい」と感じたことのある管理職は少なくないだろう。
こうした行動は、しばしば本人の能力や意欲の不足として捉えられる。しかし、その背景には、目標達成に至る具体的な道筋を見いだせていない可能性もある。たとえ目標を達成したいという意欲があっても、そのために何をすればよいのかが明確でなければ、次の行動に移すことは難しい。したがって、社員の主体的な行動を促すうえでは、能力や意欲だけでなく、目標達成に向けた道筋を描くことができているかという視点も重要となる。こうした目標達成に向けた心理状態を捉える概念が、心理的資本の構成要素の一つ、「ホープ」である。
一般的に「ホープ」は「希望」と翻訳されるが、心理的資本におけるホープとは、漠然と明るい未来を夢想することではない。臨床心理学者であるSnyderは、ホープを「目標へ向かうエネルギー」と「目標へ到達するための道筋を描く力」の両方を備えた心理状態として説明している(Snyder, Irving & Anderson, 1991)。つまり、ホープには、「この目標を達成したい」と思うWill Power(意志力)と「そのために何ができるか」を考えるWay Power(道筋を描く力)という二つの力がある。
例えば、ある社員が新商品の企画を上司に提案したものの、「前例がない」「予算がない」と却下されたとする。「会社が認めてくれないのだから仕方がない」と考えれば、そこで挑戦は終わってしまう。しかし、ホープが高い人は、「まずは小規模に試せないか」「他部署と連携できないか」「顧客の声を集めて、もう一度提案できないか」と、別の道筋を探ろうとする。要するに、ホープとは、目標を見失わず、目標達成に向けて状況に応じて道筋を描き直しながら前へ進む力なのである。
では、このような力は生まれつき決められた、生来のものなのだろうか。答えは「ノー」である。
ホープを育むためには、まず達成すべき目標を明確に設定することが重要である。ただし、簡単すぎる目標ではなく、少し頑張れば手が届く「ストレッチ目標」が望ましい。また、「失敗しないこと」ではなく、「達成したいこと」に焦点を当てた目標を設定し、大きな目標を小さなステップへ分解することも有効である。さらに、目標達成をイメージするメンタル・トレーニングや、前向きな行動を習慣化する工夫、主体的な参加を促す仕組み、挑戦を評価する報酬制度、組織からの必要なリソースの提供や個人目標と組織目標を結び付ける仕組み、研修などを通じて、「目標を達成したい」「別の方法がある」と考えられる職場をつくることこそがホープを育てる鍵とされている(Luthans, Youssef & Avolio, 2015)。
これらに共通しているのは、単に「頑張れ」と精神論を押し付けることではない。「やってみたい」、「その方法ならできそうだ」と感じられる環境を整えることである。社員一人ひとりが目標へ向かう意志力とその道筋を描く力を身に付けることこそが組織全体の成果を高める第一歩となるのである。
次回は、「自分ならできる」という感覚を育てる心理的資本の2つ目の要素「エフィカシー」について解説する。
研究員コラム
2026年10月1日
【連載】成果を出す会社は社員の“心”に投資している!
第3回:ホープ――目標へ向かう力を育てる
参考文献
Luthans, F., Youssef, C. M. & Avolio, B. J. (2015). Psychological Capital and Beyond, Oxford: Oxford University Press(開本浩矢・加納郁也・井川浩輔・高階利徳・厨子直之訳『こころの資本―心理的資本とその展開―』中央経済社、2020年).
Snyder, C. R., Irving, L., & Anderson, J. (1991). Hope and health: Measuring the will and ways. In C. R. Snyder & D. R. Forsyth (Eds.), Handbook of social and clinical psychology: The health perspective, Elmsford, NY: Pergamon Press, 285-305.
【連載】成果を出す会社は社員の”心”に投資している!(全8回)
本連載では、組織パフォーマンスにも影響する、企業で働く人々の心理的資本とウェルビーイングの関連性について、神戸大学大学院経営学研究科特命助教で、インソース総合研究所客員主任研究員も務める堂西 晴香が解説します。2027年3月まで毎月初旬に公開いたします。
・第1回:なぜ今、ウェルビーイングなのか
・第2回:ウェルビーイングを左右する「心理的資本」
・第3回:ホープ――目標へ向かう力を育てる
本連載では、組織パフォーマンスにも影響する、企業で働く人々の心理的資本とウェルビーイングの関連性について、神戸大学大学院経営学研究科特命助教で、インソース総合研究所客員主任研究員も務める堂西 晴香が解説します。2027年3月まで毎月初旬に公開いたします。
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・第2回:ウェルビーイングを左右する「心理的資本」
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