前回は、心理的資本を構成する1つ目の要素である「ホープ」について紹介した。今回は、2つ目の要素である「エフィカシー」を取り上げたい。
エフィカシーとは、「自分はやり遂げられる」という自信のことであり、日本語では「自己効力感」と呼ばれる。重要なのは、「能力があること」と「できると思えること」は別だという点である。
例えば、十分な経験と能力がある社員でも、複数の部署が関わる新規プロジェクトのリーダーを打診されると、「自分には荷が重いです」と断る人がいる。他方で、経験が十分でなくても、「やってみます」と手を挙げる社員もいる。両者の違いはその人の持つ能力そのものではなく、「自分ならできる」という信念、すなわちエフィカシーなのである。極論すれば、現時点で能力が十分に備わっていなくても自信を持つことは可能だし、逆に能力の高い人であっても、エフィカシーが低ければ最初の一歩を踏み出すことは困難である。実際、エフィカシーが高い人ほど難しい仕事にも挑戦し、障壁があっても粘り強く取り組めることから、エフィカシーは仕事のパフォーマンスと有意な正の関連を示すことが報告されている(Stajkovic & Luthans, 1998)。
エフィカシーの提唱者であるバンデューラ教授は、エフィカシーを高める方法として、以下の4つの方法を挙げている(Bandura, 1997)。
第一に、達成体験である。「できた」という成功体験を積み重ねることだ。例えば、新人営業にいきなり大型案件を任せるのではなく、まずは比較的取り組みやすい案件を担当してもらい、小さな成功を経験してもらう。こうした成功体験の積み重ねが「自分にもできる」という確信につながっていく。
第二に、代理学習である。自分と年齢や経験が近い同僚が成果を上げる姿を見ることで、「あの人にできるなら、自分にもできるかもしれない」と感じられることはないだろうか。成功事例の共有や先輩社員との同行は、代理学習によってエフィカシーを育む代表的な方法である。
第三に、社会的説得である。上司から「君なら任せられる」「ここまでできたのだから大丈夫」と、具体的な根拠を添えて励まされると「自分ならできる」という自信が生まれやすくなる。こうしたポジティブなフィードバックは、金銭的な報酬以上に従業員の業績を高める効果があることが実証的にも確認されている(Stajkovic & Luthans, 1998)。
第四に、情動的喚起である。緊張や不安が強すぎると、人は本来持っている力を発揮しにくくなる。一方で、「このプレゼンを成功させたい」「新しい仕事に挑戦できるのが楽しみだ」といった前向きな高揚感は、自身の力を引き出す後押しとなる。重要なプレゼンの前には深呼吸をする、十分な準備時間を確保するなど、過度な不安を和らげながら、適度な緊張感と前向きな気持ちで仕事に臨める状態をつくることも、エフィカシーを高めることにつながる。
要するに、小さな成功体験を重ね、周囲の人の姿から学び、具体的なポジティブフィードバックを受けながら過度な不安を和らげていくことが「自分ならできる」という自信を支えているのである。
人的資本経営において求められるのは、社員の能力を高めることだけではない。以上の4つの働きかけを通じて、その能力を十分に発揮できるという信念、「エフィカシー」を育むことも、組織のパフォーマンスを高める重要なマネジメントなのである。
次回は、心理的資本の3つ目の要素、失敗や逆境から立ち直る力である「レジリエンス」について解説する。
2026年11月1日
【連載】人的資本経営で成果を出す会社は、社員の“心”に投資している
第4回:エフィカシー――「自分ならできる」と思える力を育てる
参考文献
Bandura, A. (1997). Self-efficacy: The exercise of control, New York: W. H. Freeman.
Stajkovic, A. D., & Luthans, F. (1998). Self-efficacy and work-related performance: A meta-analysis. Psychological Bulletin, 124(2), 240-261. https://doi.org/10.1037/0033-2909.124.2.240
【連載】成果を出す会社は社員の”心”に投資している!(全8回)
本連載では、組織パフォーマンスにも影響する、企業で働く人々の心理的資本とウェルビーイングの関連性について、神戸大学大学院経営学研究科特命助教で、インソース総合研究所客員主任研究員も務める堂西 晴香が解説します。2027年3月まで毎月初旬に公開いたします。
・第1回:なぜ今、ウェルビーイングなのか
・第2回:ウェルビーイングを左右する「心理的資本」
・第3回:ホープ――目標へ向かう力を育てる
・第4回:エフィカシー――「自分ならできる」と思える力を育てる
本連載では、組織パフォーマンスにも影響する、企業で働く人々の心理的資本とウェルビーイングの関連性について、神戸大学大学院経営学研究科特命助教で、インソース総合研究所客員主任研究員も務める堂西 晴香が解説します。2027年3月まで毎月初旬に公開いたします。
・第1回:なぜ今、ウェルビーイングなのか
・第2回:ウェルビーイングを左右する「心理的資本」
・第3回:ホープ――目標へ向かう力を育てる
・第4回:エフィカシー――「自分ならできる」と思える力を育てる